古時計の魅力のひとつとして、知的好奇心をくすぐるのが貼り付けたラベルの解読でしょう。
古時計には単なる懐古趣味だとか、ノスタルジック体感では終わらない,知的好奇心をくすぐる魅力の一端がラベルにあるのです。その時計自体の情報と時代背景などの情報をひもとく古文書のような役割を果たします。
では、具体的にどんな内容が織り込まれているのか、どこが面白いのか、今回は、このあたりを少し詳しくお話ししてゆきましょう。
ラベルの意味
古時計のラベルについては、現在の日本の商品のように、法律で定められた規格とかはありませんが、時計の出自を表す内容が詰まっています。
まずは、製造メーカーの名前です。それと製造メーカーのざっくりしたおおよその住所本拠地。場合によっては製造年、モデル名も記載されます。時計やメーカーによって書かれた内容は、それぞれに違います。ある意味バラエティーに富んだ古文書といっても差し支えないと筆者は思います。
時代により違うラベル仕様
古時計の製作上、永い年月の間には、メーカー名や本拠地の変更があり、それはラベルにも反映されます。筆者の経験上で例を挙げると、アメリカ イングラハム社の時計では、イングラハムの社名の前にTHEが付かないものが一番古いようです。
これも歴史を記した文献と、ラベルという古文書の照合で個々の時計の出自を紐解くことから分かった事実です。
筆者所有のイングラハム時計はラベル劣化が激しく破れがあり判読が困難でしたが、小さくTHEと入っていることが分り、最初期ではなく1880~1884年の製作と分かりました(最初期は1861~1880年でありTHEなしのラベル仕様です)。
画像の9時の位置から時計周りにE.INGRAHAMの文字がアーチ状に入りますが、Eの手前に入るべき文字(画像左側の紙が欠落していた部分)は当初何がかかれていたか分かりませんでした。
しかし、筆者がもう一台所有するイングラハム時計は、ラベル欠落品と同時代時であった為、比較検証が可能でした。この結果、THEの文字が小さく印刷されていることが分ったのです。
他メーカーの古時計でも、ラベルには住所は町の名前が記載されていますので古文書のように文献に照らせばいつの時代の住所なのかおおよそ判別しますね。併記された記述によって、具体的に1870年などと製造年が入っていれば分かりやすくてラッキーですよ。
筆者所有の国産時計で精工舎のダルマ時計のラベルには、面白いことに博覧会で受賞した西暦が入っており、この期間が製造年であることをが物語っている興味深い一例です。
ラベルの貼り付け位置と劣化の具合
古時計のラベルの位置について、筆者の見解では殆どが振り子室の中に貼り付けられているものと経験上では思われますが、1~2割程度は本体の背面に張り付けてあります。残念ながら筆者は背面へのラベル貼り付け品は所有していません。
ラベルを貼るには、背面の方が面積も広いため、大きさも大きく当然書かれる文字数や内容も多いですね。まさに古文書となりうる立派な大きさです。但し、壁と直接接触する関係で、汚れや擦れも多く、乾燥による亀裂でぽろぽろ剥がれてしまうことがあるようです。
古文書として単独で扱われるアイテムとは違い、環境や取扱い次第でひどい状態になりうるところが欠点でもあります。
然るに、ラベルに織り込まれた折角の情報源も判読不明な箇所が存在し古文書と同様に、断片的な内容となりがちです。こんな時は古時計写真集や文献などに照らしておおよその欠落箇所を補うことも経験しました。この結果、ある程度書かれた内容はわかるおおよ可能性があります(参考資料;明治大正 古掛時計図鑑 武笠幸雄氏著)。
筆者の経験談ですが、振り子室のラベルでは、過去筆者が購入したアメリカのウェルチ社だるま時計に本体を貫く穴が開けられたものがありました。
この穴を開けた理由は、振り子の振れ角度が左右均一にならないと時計が停止してしまうことから、振り子の振れ幅を調節したのち、位置がずれるのを防ぐため、時計を壁に固定するのにねじで貫いた結果と想像します。
当然その部分のラベルは欠落しますが、ラベルは案外同時代の時計が存在しラベルが健全なものもあるので、蚤の市などで同様のラベルの時計が見つかった場合、写真を撮らせてもらえば、解読の可能性があると思われます。
まとめ
古時計のラベルは時計の出自を表す戸籍のようなもので、メーカー名、住所、年代等が分かります。まさに古文書なのです。
古時計のラベルの仕様は製造された時代によって違うものもあります。具体的にはメーカーの名前、トレードマークなどです。メーカーによってその変遷は文献などに掲載されていますので古文書として紐解く楽しみがあります。
古時計のラベルは紙でできているので、経年劣化があり、貼り付けた位置によってもダメージは違います。
しかし、これらをも含めて想像力を膨らませながらラベルを解読する楽しみは古典時計ならではの醍醐味と筆者は感じます。
読者の皆さんも好奇心を膨らませ、一度ご体験されてみてはいかがでしょうか?詳しい情報を得られれば、その時計に対する愛着もひとしおとなることでしょう。