2019年8月、氷川きよしの34枚目のシングル「大丈夫/最上の船頭」が、オリコンランキング3位の快挙を遂げた。
時代の流れだから仕方がないが、インターネットの普及が音楽業界を窮地に追い込んでいることは否めない事実。演歌の世界も、生き残る施策にをあの手この手と駆使しながら必死だ。
そんな中で、クローズアップされるのが氷川きよしの「大丈夫」売上向上施策だろう。
気に入った曲ならば単純にダウンロードすればいいじゃん的な、昨今の一般ニーズの思考をひっくり返す氷川きよしの戦略には、あしたを生き抜く色んな業種の葛藤から人々を救うヒントになるかもしれない。
「売り上げは大丈夫?」と心配するファンの声をよそに、動画の振り付けやメモリアルイベントなど話題性を振りまいて華やかに活躍する氷川きよしのバイタリティーに応援をおくりつつ、人気の秘密に迫ってみたいと思う。
「大丈夫」の戦略
前述した34枚目シングル「大丈夫」のデイリーシングルランキング3位は、2019年8月26日のことだが、ここに至るまでの氷川きよし(チーム)のの戦略と努力は目を見張るものがあった。
一時は若者音楽に押されてマイナーなイメージがまん延していた演歌界だが、テクノロジーの発達に伴いCDの売上げが音楽業界全般に低迷するなか、年配者を中心に勝負をかける演歌界において氷川きよしのキャラクターは別の道を模索し始めた。
「大丈夫」のヴァージョン違いを売り物にしようというのだ。では、一体何が違うのか?
それはジャケットの写真が異なるもの、そしてカップリング曲が異なるものだった。それらは単純に2種類ではないのだ。
先ず、2019年3月リリースした段階でA~Cタイプの3種類を提供している。これは、ジャケット写真の違いのみ。CDという商品をコレクターアイテムとして売る発想だ。え?中の曲は同じじゃん!写真の違いで売れるの?答えは売れるのだ!
しかも追加リリースは続くのだった。2019年8月にはD~Fタイプの3種類、11月にはG~Iの3種類を発表し、合計9種類3度のリリースは業界初のこころみだ。
しかも、この中のHタイプはカップリング曲が「恋初めし」に変わり、この変化球へのアピールも功を奏して「切ない」「涙した」などファンからの反応は上々で、話題性も向上し結果としてCDリリース戦略は成功を収めたのだった。
この「大丈夫」売上げをバックアップサポートする活動として、氷川きよしの誕生日9月6日には演歌単独コンサートとして史上初の大阪城ホールを会場にし、話題性をアピール。インターネット動画では両手人差し指と親指でOKマークを掲げる「大丈夫」ポーズを強調している。
こんなことしても効果あるの?なんて疑いがちだが、氷川きよしに限っては効果ありなのだ。
一体なぜ?その秘密に迫ってみた。
氷川きよし独特のファン層
最近自身のことを「ジェンダーレス男子」として公表し、自由に美を謳歌する意向を示した氷川きよし。これに対し、ファンたちは違和感を感じるどころか、ある種の納得を示し応援してゆく声が高まっている。
もともと、泥臭いルックスの演歌歌手のなかにあって、氷川きよしのデビューは鮮烈だった。綺麗な顔立ちとスタイルの良さ、澄んだ歌声は、演歌界ではまさに待ち焦がれた王子様キャラだったのだ。
当然、主体となったファン層は中高年女性。しかも熱狂的な人々が大半であり、歌声と共に彼の見た目を楽しむというアイドル志向が氷川きよしを支えてきた。
だから、CDの表紙ひとつ違ったものを発売しても、一人が複数購入するのではずれがない。
他の演歌歌手、いやアーティストではそうそうマネできない戦略だと感じる。そして更に追い打ちをかける戦略として、彼の美脚を魅せつけるプロ野球のホットパンツ始球式など、彼自身の見た目をアピールした戦略が功を奏していることは確かだ。
これからの氷川きよし
いい方を換えれば、性同一性障害。一般人にとっては、自分の意識と性別が一致しないことを悩むイメージを抱きがちだが、氷川きよしが自らを表す表現「ジェンダーレス男子」は意識的には前向きだ。
性別を超えた美意識に従い、自らを自由に開放し生き抜く姿勢は、彼を知る者の共感と賛同を日に日に増してゆく。その姿勢が見た目だけではなく、演歌を超えた歌のジャンルにまで及んでいるからだ。
今まで氷川きよしのファンが知らなかった彼の魅力に触れられるようになった点では新鮮な喜びだろうし、長い目で見た飽きの来ないタレントとしてこれからもずっと愛されてゆくはずだ。
これからは、かつての美輪明宏氏のように、自ら体験してきた悲喜こもごもを魂の歌に替えて、氷川を応援するファンに感動を与えてくれるものと信じている。
34枚目シングル「大丈夫」を記録的に売上げる力は氷川の魂の力に相違ない。
歌って踊って振り付けする氷川きよしにもはや性別の悩みは微塵も感じられない。
前向きに楽しんで生きる「ジェンダーレス男子」をこれからも温かく応援してゆきたいと感じている。
エピローグ
「ジェンダーレス男子」のキャッチフレーズで、自らの負い目を逆手に取り自由に生きながら、CDセールスのポイントとしても自分の美しさをパッケージに利用するしたたかさ。
CD販売低調の時代にあって、CDどころかカセットも売り上げてしまう異色の演歌歌手が氷川きよしだ。
その戦略は、新曲を次々に発表するよりも、一曲を次々と新しいオマケをつけてじっくり結果を出すチーム氷川きよしの秘策なのだった。
ネット動画で踊りの振り付けを流行らせたり、肌の美しさをアピールできるイベントに参加したり、販売戦略は多彩だ。しかし、氷川きよしはそれを喜びとして実行しているし、応援するファンの側も彼の新たな魅力にはまっているから全てがプラスのスパイラルとして回っているのが素晴らしい。
今後は歳を重ねるたびに、見る側聞く側の魂を震わせてくれるようなパフォーマンスを魅せて欲しいものだ。