電池を使わない機械式の古掛け時計を動かしてみたい。でも触るのははじめて。
そんな貴方に、古時計の使い方、動かし方や取り扱う際の注意点をお教えしましょう。予備知識があれば、いざ手にとって扱う際に不安なく触れるし、むしろ情報通りに動くことを確認することでそれが喜びに変わります。このページでは、そうした予備知識に加え筆者が経験した古時計にまつわる体験談も交えて楽しんで頂きたいと思います。
若者の古時計の認知度
古掛け時計といいますと、明治、大正時代の古い機械式掛け時計を指すので遡ること百年以上前に作られた機械式動力掛け時計の総称であります。
平成から令和生まれの若い人の殆どは、現代建築のアパート、マンション、あるいは持ち家で育った人たちだと思われます。
当然、家にある時計も現代技術の象徴のひとつ、電波時計を用いていたり、電波でなくても時間の狂わないクオーツ時計を使用して育ったと思います。
クオーツや電波時計はいちいち時刻合わせの手間もいらず、放っておいても一年以上動き続ける電気製品であるため、特別愛着が生まれるものでもないと筆者は思います。しかし、日々一分一秒の単位で生活スケジュールに追われる日本人にとって、愛着はなくとも電気製品の時計は生活に欠かせない必須アイテムとして定着しているものと思われます。
だからこそ、手間暇をかけて使い続けられてきた機械式の古掛け時計が、遅れたり進んだりするのも含め若い人たちにはとても新鮮に映るのではないでしょうか。しかし、古掛け時計を使うためには基本的な使い方は学び注意点を把握して置かなければなりません。事実、若い世代の人々を代表する古掛け時計の認識について、古い世代の人には、にわかに信じ難いエピソードについて聞いたことがあります。
とある若者が古掛け時計を見て店主に質問をしました。「これはどこから電池を入れるのですか?」一見笑い話に聞こえますが、当事者にとっては真剣そのものの質問なのです。機械式なので電池は使いません。動力源のゼンマイと歯車の伝達が基本となって動くものなのです。
昭和生まれの筆者の体験
筆者は、子供の頃に古掛け時計のゼンマイを巻いた経験はありませんでした。両親とアパート暮らしであった為、機械式古掛け時計の存在は知ってはいても身近な存在とまではいかず、使い方は知らなかったのです。
やがて近隣の友達との交流で古掛け時計の使い方を知りました。友達の中には代々旧家で暮らす子供もいて、この子達は自然と機械式時計に接する暮らしをしてきました。週に一回ゼンマイを巻くのは子供の役目が多かったので、自然と古掛け時計の使い方はマスターしていったのです。筆者はまた聞きの形でこの子達から使い方と注意点を教えてもらいました。
しかし、家に機械式の古掛け時計がないため身近な存在とまではいかず、実際ゼンマイを巻かせてもらったことはありませんでした。
だから、客観的に古い世代の人たちと現在の若者を俯瞰的に観察すると、こと機械式の古掛け時計に関しては双方の認識のあるなしはとても理解できます。この際、若い世代の人たち向けに、紙面を借りて古掛け時計の使い方をご紹介してみましょう。
購入して家に持ち帰るときの注意
古掛け時計の振り子室の振り子は外して新聞紙などに包み、巻き鍵とともに紛失しないよう古掛け時計と別個にして運ぶこと。
振り子のぶら下がる竿の上には、薄く焼き入れした板バネが存在し、僅かな衝撃で曲がったり折れたりしてしまいます。振り子を外さずに古掛け時計を運ぶことでよく板バネ破損の事故が起きます。扱い方としては一番に覚えて頂きたい注意点です。
板バネ破損は初心者がよくやる失敗例であり、折れた場合は時計屋さんで交換するまで機械は動きません。お部屋の模様替えなどで移動するときも同様です。古掛け時計の振り子は必ず外してから移動しましょう。
ゼンマイの巻き方
機械式の古掛け時計の場合、右側4時の位置の鍵穴は、時計の動力のゼンマイであり、反時計周りに巻きます。巻き続けると徐々に固くなっていくがいっぱいまで巻くとゼンマイ切れを起こしかねないので少し手前で止めておきましょう。扱い方ではデリケートな部分であり、注意点として重要です。
右側八時の位置の鍵穴は打ち方(時報のボンボン)のゼンマイであり時計周りに巻きます。これも巻き過ぎに注意しましょう。
設置
最初に古掛け時計をお部屋に設置する時が割と難しく、左右と上下に少しでも傾きがあると動きは継続せず機械は止まってしまいます。
注意点として左右方向は、振り子のカッチンカッチンの音が左右で均一なリズムであれば動きは継続するでしょう。機械式振り子時計を設置する際のセオリーです。しかし、この扱い方では壊れることはないので安心して下さい。
時刻合わせ
古掛け時計が示す時刻針が実際より進んでいる場合、ついつい長針短針を逆戻りさせてしまう人がいます。機械に悪い影響を与えるので絶対に避けましょう。内部の歯車は進むのみの回転であり、逆転するようには作られていないのです。扱い方の中では間違えやすく重要な注意点であります。
だから、面倒でも時刻合わせの際は、機械式の古掛け時計の針は進めて合わせることを心がけて下さい。
時刻の進み遅れを正常にしたい
季節の寒暖により、機械式の古掛け時計においては振り子の延長部の板バネの収縮や膨張が起こるので徐々に時刻が狂ってきますが故障ではありません。しかし頻繁に扱う調整ポイントなので、微調整を覚えるまでは注意して感覚をつかんでください。
古掛け時計の振り子室を開けると振り子が見えます。振り子の下側先端に錘の位置の調整のねじがあります。これを回して振り子の錘を下に下げると時間は遅らせることができます。上にあげると進みます。
季節の目安としては、夏は暑く金属が膨張しますので板バネが伸びます。その分、錘も下に下がるので調整ねじを2回転ほど上に回して様子を見ながら微調整します。冬はその逆で下に回します。
この時必ず、古掛け時計から振り子を外してから調節しましょう。
その他筆者が失敗したことからのアドバイス
巻き鍵は時計に付属された当時のオリジナルである確率は50パーセントくらいと筆者は思います。
製作から140年以上経過している古掛け時計は、取扱い業者が類似したものをまとめて売り買いするうち、ごちゃまぜにされてしまったケースが過去にあるように思われ、刻印などは殆どないため見分けがつきません。
巻き鍵はサイズが限られているので共通性がありますから、実使用に支障はないのですが、問題は巻き鍵が劣化している場合、時計側に鍵を差し込んだ時、フィット感が緩く感じるときがあります。こんな時はのちのち巻き鍵が空回りして使えなくなってしまうことが殆どです。
古掛け時計を購入する際は、店主にことわりを入れたうえで、巻き鍵を少し巻かせてもらいましょう。緩い場合の違和感は、注意すれば初心者でも分かりますので是非試してから購入してください。
まとめ
機械式の古掛け時計をお店で見つけて持ち帰るとき、または部屋で移動するとは、時計本体、振り子、鍵は別々にしてから移動しましょう。注意点として紛失しないよう気をつけましょう。
使い方の中で古掛け時計のゼンマイを巻くのは、4時位置穴は反時計方向、八時位置穴は時計方向に巻きます。巻き過ぎると切れる恐れがあるので少し手前でストップです。
柱などに古掛け時計を設置するときは、上下左右の傾きは禁物です。機械式といえども、振り子の原理は地球の中心と均衡を保つことが前提の道具であることを覚えておいてください。
機械式の古掛け時計の時刻調整は針を進む方向に動かします。戻し方向に動かすのは故障の元ですので止めましょう。最大の注意点です。
時刻精度を出すには、振り子の錘を上下に調節します。
以上の説明でひととおり古時計を動かす手順、扱い方が理解できたと思います。もし、これで動かない場合、機械が古い油で固まってしまっていることもあるので、故障時と同様に時計修理店に持ち込むことをお勧めします。
でも殆どの機械式古掛け時計は、よほどの油の凝固や板バネ破損がない限り、トラブルなく動きますのでそれほど心配しないで下さいね。もちろん使い始めは注意が必要ですが、積極的に使い方や扱い方を覚えたうえで楽しみながら、これらの歴史的遺物が醸し出すテイストを存分に味わってくださいね。